
寒さが増す冬の季節、「なんとなく体が重い」「手足が冷えて眠れない」と感じる方も多いのではないでしょうか。そんなお悩みを和らげる方法として注目されているのが、体を内側から温める「温活」です。中でも、毎日の入浴は最も手軽で効果的な温活習慣のひとつ。今回は、入浴や温泉の医学的研究の第一人者である早坂信哉先生に、温活効果を高める入浴方法について伺いました。

早坂信哉先生
早坂信哉先生
温泉療法専門医、博士(医学)、東京都市大学教授。地域医療の経験から入浴の重要性に気づき、25年以上にわたって7万人以上の入浴を調査した、お風呂や温泉に関する医学的研究の第一人者。著書『入浴 それは、世界一簡単な健康習慣』『医師が教える温泉の教科書』、『かんたんお風呂ヨガ』、『おうち時間を快適に過ごす 入浴は究極の疲労回復術』、『最高の入浴法』、『入浴検定公式テキスト』など。
温活の最強ツールは「自宅のお風呂」!? 冷えと上手につき合う方法
「温活」の目的は、ただ体を温めることではありません。私たちが本来持っている体の機能を、「冷え」によって乱れた状態から整えることにあります。
冷えの主な原因は?
「冷え」の原因は大きく2つに分けられます。1つは、熱をつくる力の低下。もう1つは、つくられた熱を運ぶ血流の悪化です。
女性に冷え症が多い理由の1つは、男性に比べて筋肉量が少ないことが挙げられます。筋肉は体内で最も効率的に熱をつくる組織であり、筋肉量が少ないと熱をつくる力も弱くなります。また、せっかくつくられた熱も、血流が悪いと体の末端まで届きにくくなります。この「熱をつくる力」と「熱を運ぶ力」が弱くなることで、冷えを感じやすくなるのです。
全身を丸ごと温められる入浴の効果とは。シャワーとの違いを比較
冷えの根本的な原因である血流の悪化を、最も手軽で効果的に改善できるのが入浴です。自宅にあるもので全身を丸ごと温められるという点で、入浴はセルフケアの中で特に優れた手段と言えるでしょう。
忙しい方の中には、シャワーで済ませたいという方も多いかもしれませんが、シャワーと入浴では、体の温まり方に大きな違いがあります。例えば、シャワーを10分間浴びても体の中心の温度(深部体温)は0.1℃ほどしか上がりません。一方、湯船に10分間浸かると深部体温は0.5〜1℃上昇します。入浴によって深部体温がしっかり上がることで、温かさが持続しやすくなるのです。
深部体温を味方につける、最適な入浴リズム

理想的な入浴のタイミングは「寝る90分前」です。入浴で上がった深部体温は、約90分後に最も下がり、入眠しやすい状態になります。例えば23時就寝なら、21時30分までに入浴を終えるのがおすすめです。
また、食後すぐの入浴は、消化器官への血流が減り、消化不良を起こす可能性があります。そのため、食後30分〜1時間は入浴を控えましょう。例えば21時30分に入浴するなら、20時までには食事を終えたいです。
湯温と入浴時間の目安
湯温は40℃程度がベストです。42℃以上の熱いお湯は交感神経を刺激し、結果的に血管を収縮させてしまう他、多量の発汗も起こすため、温かさが持続しにくいという研究結果があります。
のぼせを防ぎながら深部体温を効率よく上げる入浴時間は10分、長くても15分以内です。また、半身浴は、体が温まるまでに全身浴の約2倍の時間がかかります。呼吸器や心臓に問題があるなど、特に健康上の問題がなければ、全身浴が最も効果的です。
入浴がもたらす多様な健康効果
・疲労回復・痛みの緩和
入浴で血流が改善すると、疲労物質が体外へ排出されやすくなります。また、温熱によって筋肉や靱帯の緊張が緩み、関節の動きもなめらかになって、筋肉や関節の痛みが和らぎます。
・リラックス効果(自律神経の調整)
40℃程度のお湯に浸かると、血管が広がり、血流が良くなります。さらに、副交感神経が優位になり、心身をリラックスさせることができます。
・睡眠の質の向上
人間の体は、熱が放散されずに深部体温が高いままになっていると、寝つきが悪くなると言われています。「手足が冷えて眠れない」という方は、入浴で深部体温をいったん上げることで血流が改善し、手足からの放熱がスムーズになり、睡眠の質が上がります。
体をしっかり温めるために。入浴中の過ごし方のポイントは?
入浴中には「1:2腹式呼吸」を取り入れることをおすすめします。お湯に浸かるだけでも副交感神経は優位になりますが、腹式呼吸を組み合わせることで、さらに深いリラックス状態をつくることができます。
具体的には、湯船に浸かった状態で、鼻から息をゆっくり吸い、口から倍の時間をかけて吐き出します。例えば3秒息を吸って、5~6秒かけて吐くイメージです。これを10回から20回ほど繰り返します。軽く目を閉じ、心配事や雑念が頭の中に出てきてもやり過ごすようにして、ちょっとした瞑想(マインドフルネス)をするような感覚で行うと、より効果的です。このようなお風呂で行う瞑想を、私は「マインドフロネス」と呼んでいます。
入浴中におすすめのストレッチ
入浴で体が温まると筋肉がほぐれ、柔軟性が高まるため、軽いストレッチを行うのもおすすめです。ただし、浴槽内は狭いため、無理のない範囲で行ってください。
肩こりや腰痛が気になる場合は、肩までしっかり浸かったうえで、
・肩を上下させる
・首をゆっくり回す
・手を肩に置き、ひじで円を描くように回す
・浴槽のフチに手をかけて、腰をゆっくり左右にひねる
といったストレッチをしてみましょう。
足先の冷えが強い場合は、足の指に手の指を絡め、足首を回す動きが効果的です。手足を動かすだけでも血流が高まるため、できる範囲で取り入れてみてください。
時間がない人のための「最小限の温活」
忙しくて毎日湯船に浸かれない方には、「手浴」や「足浴」がおすすめです。42℃のお湯に10分程度手や足を浸すだけで、体全体がじんわり温まってきます。足浴の場合は洗面器にお湯を張ってもいいですし、湯船にお湯を10cmほど張って、足をつけながらシャワーを浴びてもいいです。
私自身は、ときどき「手足だけの温冷交代浴」を行います。40℃のお湯に全身で3分間浸かったあと、シャワーで30℃程度のぬるま湯を30秒間、手足に当てます。その後、再び温かいお湯に浸かるといったサイクルを2、3回繰り返す方法です。血管の拡張と収縮が交互に起こることで血流が活発になり、手足の温かさが長続きします。忙しい方でも取り入れやすい方法なので、冷えが気になる方にはぜひ試していただきたいです。
※温冷交代浴は刺激が強いため、血圧が高い方は控えてください。
冷えを感じたら、まずは1日の終わりに湯船に浸かることから始めてみてください。無理なく続けられる自分なりの入浴リズムを見つけることが、寒い季節を軽やかに乗り切るカギとなります。今日の温活が、明日の健やかさへつながることでしょう。