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季節の変わり目は、寒暖差の影響で胃腸の調子を崩しやすい時期。そんなときにうれしいのが、体を温めて内側から整えてくれる、やさしいスープです。
今回は、料理研究家の石澤清美さんに、胃腸にやさしい食材を使ったスープレシピを3品伺いました。手軽に取り入れられる工夫や、食材選びのヒントもあわせてご紹介します。

石澤 清美さん
石澤 清美さん
料理研究家。家庭料理をはじめ、パン・お菓子・保存食など幅広いジャンルのレシピを提案し、多数の料理本を執筆・監修。料理教室「KIYOMI’s FOOD ATELIER」を主宰し、国際中医師・国際中医薬膳師・国際薬膳茶師、米国NTI認定栄養コンサルタント、ハーバルセラピストの資格を持つ。『体と心をいたわる薬膳みそ汁』(㈱Gakken)など。
胃腸をいたわる食材とスープのメリット
「胃腸」は体調がすぐれないときに真っ先に影響を受けやすい器官です。胃腸が弱っているときほど、無理のない範囲で体にやさしい食事や調理法を意識することが大切になります。
まず避けたいのは、唐辛子や香辛料といった刺激の強いもの、ゴボウのように繊維が粗く消化に時間がかかるもの、脂身の多い肉や揚げ物のような油っぽい料理です。特に油は消化に大きな負担をかけるため、胃腸の調子が悪いときはできるだけ控えた方が安心です。
調理の基本は「やわらかく煮て、温かく、薄味に」仕上げること。食材をあらかじめやわらかくしておくと、消化を助け、胃腸への負担もぐっと減ります。また、煮込むことで食材の甘みやうま味が自然に引き出され、余分な調味料を使わなくても十分においしくいただけます。忙しいときは電子レンジ調理でも構いませんが、時間をかけて煮込んだときの味わいの変化もぜひ楽しんでみてください。
体を温めるスープの力
体を温めることは、臓腑の働きを助けることにつながります。特にスープは、体を内側からじんわりと温めてくれる理想的な料理です。同じ食材でも、スープにしてやわらかく煮込むことで消化しやすくなり、水溶性の栄養素も余さず摂ることができます。
胃腸が本当に疲れているときは、具を取り分けてスープだけをいただくのもおすすめです。回復してきたら、その具材をペーストにしてポタージュにすれば、食材を無駄なく使いきることができます。
スープは発酵食品との相性も抜群。私たち日本人にとって、味噌は腸内環境を整えてくれる心強い存在であり、冬には体を温める酒粕もぴったりです。さらに体を温める食材としては、ネギ類やニンニク、ショウガがよく知られています。薬味に使われる三つ葉やミョウガ、青じそを添えるのもいいですね。フェンネルやクミンといった香りのスパイス、ゆずなど柑橘類の皮も、適量であれば体を温めながら消化を助けてくれます。
市販のだしやスープの素を使ってもいいですが、スープに使われる鶏肉などの食材の効能は得られないため、「調味料」として割り切りましょう。大切なのは、濃い味に頼りすぎないこと。ときには「薄味の日」を作って味覚のリセットを心がけましょう。特に、朝は味覚が繊細で、素材本来の自然な甘みを感じやすい時間帯です。素材の味と、少しの塩だけで整えたポタージュで、十分に満足感を得ることができるはずです。
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手軽にできる、“胃腸にやさしい”スープ3品
ここからは、胃腸をやさしく整えるスープレシピを3品ご紹介します。
ニンジンとサツマイモのポタージュ
ペーストを作り置きして豆乳で伸ばすだけのおなかにやさしいポタージュです。

▼所要時間の目安
25分
▼材料(3~4杯分)
・ニンジン 2本(約250g)
・タマネギ 1/2個(約75g)
・サツマイモ 小さめ1本(約200g)
・塩 小さじ1/2
・胡椒 少々
・豆乳(または牛乳)適量
・お好みでハーブ適量
▼つくり方
1. ニンジンは皮付きのまま、いちょう切りにする。サツマイモは皮を薄くむいて、厚さ2cmのいちょう切りにし、水にさっとくぐらせる。タマネギは乾いた皮をむき、根と先を切り落とし、横半分に切ってざく切りにする。
2. 1を鍋に入れてざっくり混ぜ、水200ml(分量外)を注ぎ、中火にかける。
3. 煮立ったら全体を大きく混ぜ、蓋をする。吹きこぼれないように弱火で15分煮る。
4. 3をミキサーかフードプロセッサーに移し、塩を加えてペーストにする。
5. 2人分の場合、ペースト200gに対して100ml程度の豆乳(または牛乳)でのばし、煮立てないように温める。お好みでハーブを散らす。
おすすめポイント
野菜を煮てつぶし、のばして温めるだけで、野菜本来の栄養素をストレートに取り入れられるスープです。中医学(中国で古くから発展してきた伝統医療の体系)で消化力の助けになるニンジンとサツマイモを使いました。ペーストは冷蔵庫で5日ほど保存可能。それ以上は冷凍保存がおすすめです。朝、少しレンジで温めてから牛乳や豆乳でのばせば、すぐにいただけます。肌寒い日は濃いめに仕立てて食べるポタージュもしくはスープ風に、軽やかに楽しみたいときは豆乳を多めに加えてスムージー感覚で。体調や気分に合わせて濃度を調整しながら、自由に楽しんでいただけます。
ソリャンカ風トマトスープ
やさしい酸味が食欲をそそるベジスープです。

▼所要時間の目安
20分 ※ヨーグルトの水切り時間は含まない
▼材料(4人分)
・プレーンヨーグルト 200ml
・キャベツ 150g
・セロリ 1本
・タマネギ 1/2個
・マッシュルーム 50g
・お好みでケイパー 10g
・あればディルなどのハーブ
・スープストック 700ml(水700ml+スープ顆粒大さじ1/2でも)
A
・水切りヨーグルトの汁(なければスープ 50ml)
・トマトピューレ 大さじ1
・塩小さじ 1/2
・胡椒 少々
▼つくり方
1. 小さなザルにペーパータオルを敷いてヨーグルトをのせ、冷蔵庫に3時間ほどおいて水けを切る。
2. 野菜、ケイパーは食べやすく切って鍋に入れ、スープストックとAを注いで蓋をする。弱めの中火で15分、野菜が十分やわらかくなるまで煮る。
3. 器に盛り、水切りヨーグルトとディルを添え、混ぜていただく。
おすすめポイント
ソリャンカは、本来は発酵ピクルスを漬け汁ごと加えて作るロシアのスープです。今回は代わりにヨーグルトから出る水分(ホエー)を使い、さっぱりとした旨味を引き出しました。ホエーにはタンパク質が溶け込んでいて、栄養面でも優れています。仕上げにヨーグルトをトッピングすると、生クリームのようなコクが加わり、食欲をそそる味わいになります。
とろろ納豆のみそスープ
日本人のお腹にぴったりの発酵食品を使ったスープです。

▼所要時間の目安
5分
▼材料(2人分)
・長芋 150g
・ひきわり納豆 2パック100g
・細ネギ 3本
A
・和風だし 300ml
・みそ 小さじ2
・薄口しょうゆ 小さじ2
▼つくり方
1. 長芋は皮をむいてすりおろし、納豆とともにスープカップに入れる。
2. 細ネギは小口切りにする。
3. Aをひと煮たちさせて1に注ぎ、2を散らす。混ぜていただく。
おすすめポイント
納豆の発酵の力を生かすため、火にかけずに温かいだしを注ぐだけで仕上げます。長芋は、お腹を整える生薬のひとつ。お腹が冷えているときは、だしと一緒に軽く煮ていただくのも良いですが、基本は生のまま、汁を注ぐスタイルがおすすめです。体が冷えているときには、おろし生姜を添えると、より温まります。納豆に付いているからしを加えると、また違った風味が楽しめます。
季節や気分に合わせてスープをアレンジ
ポタージュの具材は、季節に合わせて自由に選ぶといいでしょう。さっぱり系が好みなら、サツマイモの代わりにジャガイモを使っても。カボチャや冷凍の里芋でもおいしく仕上がります。
ソリャンカの野菜はお好みで構いませんが、消化を整えるキャベツをたっぷりとやわらかく煮込むのがおすすめです。セロリやタマネギのほか、ニンジン、カボチャ、大根、ビーツなどを加えることで、野菜をたっぷり摂れます。ケイパーを加えると、本場らしい香りが楽しめますが、なくても十分おいしく仕上がります。
納豆のみそスープには、三つ葉やミョウガなどの薬味を添えると風味が増します。夏なら、刻んだめかぶや、もずくを加えるのもおすすめです。
胃腸が元気なときは、スープにタンパク質を加えてみてください。例えば、ソリャンカには、中医学で消化にやさしいとされる鶏肉が相性ぴったり。風味が深まり、より食欲をそそります。また、とろろ納豆のみそスープに温泉卵を添えると、まろやかなコクが引き立ちます。
胃腸を整えるために、日々の食事のなかでできること
日々の食事で何より大切なのは、「食べることに集中する」ことです。スマホやテレビを見ながらの食事は、どうしても消化に負担をかけてしまいます。まずは、目の前の料理を「おいしそう」と感じながら味わってみましょう。
また、なるべく温かい料理を選ぶこともポイントです。電子レンジで軽く温めるだけでも、胃腸への負担は減ります。さらに、食事の前に深呼吸をして心を落ち着けてから食卓につくと、消化がスムーズになります。「よし」と一息ついてから食べ始めることで、心と体の両方を整えることにつながります。
胃腸はとても正直で、気温やストレスの影響を受けやすい反面、少しの工夫でぐっと元気になる器官でもあります。冷えたら温かいものを、疲れたらやさしい味を。そんなふうに、体の声に耳を澄ませながら、今回ご紹介した3つのスープを作ってみてください。