いたわる

専門医に学ぶ、睡眠の質を上げるための3つのステップ

布団で眠る女性のイラスト

脳と身体をメンテナンスし、心身の健康と明日のパフォーマンスを支える大切な役割を果たす睡眠。とはいえ、心地の良い時間であるべき睡眠が「悩みの種」になっている人も多いのではないでしょうか。今回は睡眠の質を上げるためのステップについて、1日の過ごし方、夜の環境づくりまでを整理しながらご紹介します。

栁原万里子先生

栁原万里子先生

医学博士。日本睡眠学会総合睡眠専門医/指導医・日本呼吸器学会呼吸器専門医/指導医。産業医。筑波大学附属病院睡眠呼吸障害診療科病院講師、東京医科大学睡眠学寄附講座客員講師を経て2022年に「眠りと咳のクリニック虎ノ門」を開院。「皆さまの睡眠と健康寿命を守る」をモットーに、女性ならではの丁寧な視点で多岐にわたる睡眠障害の診療と睡眠についての臨床研究、啓発活動を行う。著書に『臨床医のための疾病と自動車運転(三輪書店)』『診断と治療のABC 睡眠時無呼吸症候群(最新医学社)』など。

STEP1. 「眠るための3つの仕組み」を知る

布団で眠る女性のイラスト

人の体には生まれつき「眠るための仕組み」が備わっています。まずはこの仕組みを理解しましょう。上手く眠るためのヒントが見えてきます。

・疲れたら、眠る

1つ目の仕組みは「疲れたら、眠る(睡眠圧)」。覚醒中の活動量が多いほど、また覚醒時間が長いほど、脳や身体の疲れは多く溜まります。この疲れを「睡眠圧」と呼びます。

布団に入るまでにより多くの疲れを溜める(「睡眠圧」を高める)ほど、ぐっすりと質の良い睡眠がとりやすくなります。夜までに「睡眠圧」を高めて上手に眠るためには、覚醒中に脳も身体も活発に活動することが大切です。

睡眠をとると脳や身体の疲れが癒され、「睡眠圧」が下がります。これは睡眠の大切な役割です。その一方で、日中の長すぎる昼寝や日没後の寝落ちはベッドで上手く眠るための「睡眠圧」を下げてしまい、眠れない原因となってしまうため、注意が必要です。

・夜になったら、眠る

2つ目の仕組みは「夜になったら、眠る(体内時計)」。ヒトは朝起きて活動し、夜眠る「昼行性の動物」としての体内時計を持っています。現代の日本は夜も明るく、通信環境も普及しており、昼夜を問わず電子機器の光を目にしながら活動を続けることができます。深夜営業や24時間営業の増加に伴い、夜勤をする人も増えたのではないでしょうか。

このように環境の光や生活活動の昼夜のメリハリが失われると、体内時計は良いタイミングで睡眠・覚醒の指令を出せなくなります。その結果、寝つきが悪くなり朝起きられない「昼夜逆転」や心身の不調を起こします。上手に眠るためには、昼夜のメリハリをつけることを意識し「夜になったら、眠る」という体内時計のリズムを大きく崩さないことが大切です。

・安心したら、眠る

3つ目の仕組みは「安心したら、眠る(自律神経系)」。本来、ヒトは動物として弱い存在であるため、自然界では夜になると外敵から身を隠し安心できる場所でひっそりと寄り添って眠りについていました。

そのため、眠るためには安心ができること、また心地が良いことがポイントです。心拍数をあげるような心配事や激しい運動は自律神経を交感神経系優位にし、覚醒を促すので避けるようにしましょう。

よく聞く「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」って何?

睡眠中は「ノンレム睡眠」で始まり「レム睡眠」で終わるというサイクルを90〜120分周期で一晩に4〜5回繰り返しています。ノンレム睡眠とレム睡眠は、それぞれ異なる役割を果たしていると考えられています。

レム睡眠は、脳が働いている睡眠。体は休んでいても脳が活発に働いている状態で、比較的浅い眠りです。レム睡眠は夢を見る時間として知られており、日中に得た新しい情報や過去の古い記憶を整理し、必要な記憶を定着させる役割を持っていると考えられています。

一方でノンレム睡眠は、脳も体も休んで疲れを癒している時間。この時間が不足すると脳の疲労が残ってしまい、覚醒中の脳の活動が低下します。その結果、集中力や判断力が低下しミスが増えるなどのパフォーマンスの問題を生じるほか、感情の制御が上手くできなくなりイライラする、落ち込むなどの情緒不安定を招きます。

ノンレム睡眠には浅い眠りから深い眠りまでの3段階があり、特に「深睡眠」と呼ばれる最も深い睡眠の時間に成長ホルモンが多く分泌されます。成長ホルモンは大人では新陳代謝を高め、身体の機能や免疫を維持する働きをしています。睡眠が不足すると肌荒れや体調不良が出やすくなるのはこのためです。

STEP2. 眠る準備は朝から始まる。良い睡眠のための日中の過ごし方

朝の日差しを浴びる女性のイラスト

ベッドの中で眠ろうとして頑張れば頑張るほど目が冴えてしまう、そんな経験はありませんか?実は、上手く眠るために頑張る場所はベッドの中ではありません。上手く眠るため準備は朝から始まります。

・朝の光を浴びる(体内時計を整える)

目の奥にある脳の「視交叉上核(しこうさじょうかく)」と呼ばれる場所に、体内時計の本部があります。この時計は主に目にする光によって調整されています。朝になり眩しい光を感じると、この体内時計の本部は脳内や身体の内臓や筋肉にある体内時計の支部へ覚醒する準備をするよう指令を出します。夜になり光の刺激が途絶えると、体内時計の本部は脳内や身体の内臓や筋肉にある支部へ眠る準備をするよう指令を出します。

目覚めたい時刻より前に目元が眩しくなると、覚醒前から体内時計の本部や支部が覚醒の準備を始めてくれます。そして、眠って身体を休めるために下がっていた血圧や体温が上がり、スムーズに覚醒しやすい状態になります。一方で、目覚めたい時刻になっても目元が眩しくならない場合には、脳や身体が覚醒するための準備が整わず、起床困難や倦怠感を生じやすくなります。目覚めが悪いのに起きづらくなり起床後のダルさや眠気を感じやすくなる傾向があります。遮光カーテンや雨戸を使っている場合は、光を通すものへの変更を検討しましょう。寝室の工夫が難しい場合でも、午前中に30分程度の日光浴をするのがおすすめです。また、光が差す窓際で朝食や身支度をする、朝の通勤時にできるだけ日向を歩くといった日常の工夫も体内時計を整えるために役立ちます。

・毎日決まった時刻に起きる(体内時計を整える)

平日は毎日決まった時刻に起床していても、休日には長く眠って遅起きをしてしまうケースも。これは「ソーシャルジェットラグ(社会的時差ボケ)」と呼ばれる現象で、体内時計の乱れを引き起こし、平日の起床困難や日中の眠気、睡眠の質の低下を招く原因となります。

休日に長く眠ることで睡眠不足が解消できるというメリットもありますが、できれば早寝をする形で睡眠時間を延ばせるとベスト。休日と休日の起床時刻のズレを1時間以内に抑える、夜更かしをした翌日は早く就寝するなど体内時計を崩さない配慮をしましょう。

・朝食をとる(体内時計を整える)

朝食をとることも胃腸にある体内時計の支部に朝が来たことを伝える刺激となります。体内時計の支部からも、脳にある体内時計の支部へ覚醒を促すシグナルを送ります。特にトマトや卵、乳製品、大豆製品に含まれるアミノ酸の「トリプトファン」は、日中は「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンへ、夜は睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンへと代謝されます。気分の安定と夜の眠りやすさの両方を支えるので、朝食におすすめです。

・日中は元気に活動する(睡眠圧を高める)

上手く眠るために必要な「脳と身体の疲れ」=「睡眠圧」を夜までに高めておくためには、覚醒中に脳も身体も活発に活動することが大切です。

長い休憩や長すぎる昼寝はせっかく溜めた「睡眠圧」を解消してしまうため避けましょう。適した昼寝の目安は15時までに30分以内です。「一度寝るとなかなか起きられない」という不安がある人は、お昼寝の前にコーヒーを1杯飲むと15〜20分程度でカフェインが効いてくるため目覚めやすくなります。15〜30分程度の短い昼寝でも、1〜2時間の睡眠をとった場合と同じ程度のリフレッシュ効果が期待できます。

普段の運動量が少ない場合には、適度な運動習慣を取り入れて睡眠圧を高めるよう心がけましょう。休憩をしすぎずにベッドまで疲れを溜めておくための体力を作っておくことも大切です。

STEP3.眠るための仕上げ。夜の過ごし方と寝室環境

間接照明をつけて横になる女性のイラスト

・日没後にうたた寝や寝落ちをしない(睡眠圧を下げない)

特に日没後から就寝までの夜間のうたた寝や寝落ちは、たとえ短時間であっても夜の睡眠への影響が大きく、入眠困難や睡眠の質の低下を招く原因となります。その影響力は昼寝よりも大きいことが知られています。

夜にうっかり寝落ちしがちな時間帯の少し前からは、身体を動かすような用事や家事、シャワーを浴びる時間にするといった「眠りにくい行動」を予定しておくなど、夜のスケジュールを見直すなど工夫をしてみましょう。

・眩しい光を避ける(体内時計を整える)

夜になり光の刺激が途絶えると、脳にある体内時計の本部は身体にある支部へ活動を落とし眠る準備をするよう指令を出します。就寝の1時間ほど前からは文字が読めない程度を目安として明るい照明は避け、夕焼けをつくるような気持ちで間接照明へと灯りを落としましょう。

帰宅時刻が遅く、寝るまでに時間がとれない場合には、照明を落とした状態で入浴をするのもおすすめです。また、就寝前のスマートフォンのブルーライトにも注意をしましょう。ベッドの中でSNS動画などを楽しむ習慣がある場合には、電子機器の画面をふせて音声だけでも楽しめるコンテンツを選ぶなど、眩しい光を目にしない工夫をしましょう。

・夜更かしを習慣化しない(体内時計を整える)

日中に自由になる時間をとれなかった分、睡眠時間を削り夜更かしをして自分の時間を取り戻そうとする習慣は「リベンジ夜更かし」と呼ばれています。

「リベンジ夜更かし」には、欲求を解消させるというメリットがある一方で、睡眠不足や体内時計の乱れを招くというデメリットがあります。体内時計が昼夜逆転に近い状態になると、いざ早寝をしようと思っても寝つけず、朝望ましい時刻に起床することが難しくなります。夜更かしを習慣化しないように気をつけましょう。

・夜は“おしとやかに”過ごす(自律神経系を整える)

眠るためには安心ができること、つまり自律神経系が副交感神経系優位になることが大切です。心拍数を上げるようなスリリングなゲームや心配事、激しい運動や熱いお風呂は交感神経系を優位にさせ覚醒を促すため、就寝直前は避けましょう。

一方で、好きなアロマを楽しむ、ぬるめのお風呂にゆっくりつかる、好きな音楽をかける、心地良いレベルのストレッチをするといったリラックスができる行動は、副交感神経系を優位にさせるため眠りにつきやすくなります。

ベッドの中で眠ろうと頑張っているのに気持ちが高ぶってしまいなかなか眠れない場合には、一旦ベッドから離れてリラックスできるような気分転換をしてからベッドに戻るのもおすすめです。アルコールはリラックスと入眠には役立ちますが、入眠後の睡眠の質を悪化させます。飲酒は就寝4~5時間前までを目安とし、寝酒の習慣化は避けましょう。

・寝室環境を整える(自律神経系を整える)

寝苦しくならないよう、心地良く寝室環境を整えることも大切です。睡眠に適切な気温(冬は16~19℃・夏は24~25℃)や湿度(50%)、適度な静けさや暗さ、身体が痛くならないマットレスや枕など、寝室環境をできるだけ心地良く整えることも役立ちます。通気性や放湿性に優れた、体温調節を妨げない肌触りの良い素材の寝具を選ぶこともおすすめです。

睡眠の質を上げるための第一歩は、肩の力を抜くこと

上手く眠れない日が週に3日以上あり、日中の活動に支障をきたしている場合には不眠症が強く疑われます。セルフケアを試しても上手くいかない場合や困っている場合には気負わずに睡眠外来へ相談しましょう。睡眠外来は総合病院やクリニックに開設されており、特に日本睡眠学会睡眠総合専門医がいる睡眠外来がおすすめです。

睡眠外来では不眠症以外にも、遅寝遅起きが常態化して困っている場合、夜勤が原因で上手く入眠・覚醒ができない場合、眠りすぎてしまう場合などでも、プロの視点からその方にあった提案や処方で症状の改善が目指せます。十分な時間眠っているはずなのに疲れがとれない方、日中の眠気に悩まされている方も相談が可能です。

自分の睡眠を意識し、睡眠の質と日中のパフォーマンスの改善を目指すことはとても良いことです。そこでは睡眠を数値化・可視化するウェアラブルデバイスも役立ちますが、データを気にしすぎて眠るために神経を張り巡らせるような状態になると、かえって上手く眠れなくなることも。「何のために眠るのか」という原点に立ち返ることが大切です。

日中に脳も身体も心もある程度元気に活動ができているなら、毎日必ず上手く眠れている必要はありません。完璧でなくてもOKと考えましょう。少しおおらかに肩の力を抜くことが、良い眠りにつながります。

良質な睡眠は、日々の習慣の延長線上に育まれていくものです。今回ご紹介したポイントを参考に、朝・昼・夜それぞれの過ごし方を見直して、「眠る時間」を心地良いものにしていきましょう。

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