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67歳でサブスリー!弓削田眞理子さん&専門医に学ぶ、シニアの“ちょうどいい”ランニング

ランニング仲間と練習する弓削田眞理子さん

ランニング仲間と練習する弓削田眞理子さん

心身をリフレッシュさせるランニングは、年を重ねても続けやすいスポーツの一つです。一方で、年齢とともにこれまで通りの走りが難しくなる場面も増えてくるはず。そんなときに大切なのは、今の自分にとって「ちょうどいい」走り方を見つけることです。

そこで今回は、自分の体と丁寧に向き合いながら走り続け、65歳以上女性で世界初のサブスリー(フルマラソン42.195kmを3時間未満で完走すること)を達成した市民ランナーの弓削田眞理子(ゆげた・まりこ)さんにインタビュー。さらに、ランニング障害(ランニングに起因する怪我のこと)の専門家である諏訪通久先生の視点も交え、年を重ねても無理なく、長く、楽しく走り続けるためのヒントをお届けします。

弓削田 眞理子さん

弓削田 眞理子さん

弓削田 眞理子さん

1958年、埼玉県生まれ。埼玉県立高校教員。24歳の時、市民ランナーとして初フルマラソンを完走以来、完走回数は150回以上。58歳、初サブスリー達成。61歳、世界初の女性60歳以上のサブスリー達成者となる。62歳、自己ベストの2時間52分13秒をマークし、世界記録を更新。女性65歳以上の部において、3000m、5000m、10000m、フルマラソン世界記録保持者(2026年2月時点)。2025年 11月の神戸マラソンで、67歳にしてサブスリーを達成。65歳以上女性世界初のサブスリー達成者となる。

諏訪 通久先生

諏訪 通久先生

諏訪 通久先生

猫山宮尾病院 整形外科勤務。医学博士。専門はスポーツ障害で、日本整形外科学会専門医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。日本陸上競技連盟公認コーチ。日本スポーツ協会公認陸上競技コーチ。趣味は、マラソン、スポーツ観戦、旅行。著書に『サブ2.5医師が教えるマラソン自己ベスト最速達成メソッド』(大和書房)。フルマラソン自己ベストは2時間28分57秒(別府大分毎日マラソン 2017)。

地球4周分・フルマラソン150回走破。原動力は初マラソンで感じた喜びと悔しさ

インタビューに答える弓削田さん

インタビューに答える弓削田さん

弓削田さん これまでの走行距離を振り返ると、自分でも驚きます。練習日誌をつけ始めた1997年以降の総距離は、14万kmを超えました。地球一周の距離が約4万kmですから、学生時代から走り続けてきたことを考えると、生涯では地球4周以上に相当すると思います。フルマラソン完走は、2026年1月の大阪国際女子マラソンで記念すべき150回目になりました。

原点は、中学生の頃に陸上を始めたこと。高校では800mでインターハイに出場し、大学で1500mや3000mに取り組むようになり、走る距離が伸びるにつれて、「自分は長い距離の方が向いているかもしれない」と考えるようになっていきました。

「マラソンを走ってみたい」と思うようになったきっかけは、大学3年生のときに開催された東京国際女子マラソン(2008年に終了)。興味津々で国立競技場まで観に行ったのですが、その日は大雨。全身びしょ濡れでゴールしてくる選手たちの姿が本当に格好良くて、大感動しました。大学卒業後は教員になりましたが、24歳のときに憧れの東京国際女子マラソンでフルマラソンに初挑戦。目標としていたサブスリーは達成できませんでしたが、走り切れた達成感はものすごかったです。トラック競技で好成績を残したときでも、うれしかったのは1日くらいでしたが、フルマラソンを完走したときは、1週間くらいうれしくて。それで、ハマっちゃったんですよね。

地元の運動公園でランニング仲間と練習をする弓削田さん

地元の運動公園でランニング仲間と練習をする弓削田さん

一方でそのとき、学生時代に競い合っていた仲間たちが3時間を切っていたのを見て、「私もサブスリーを達成したい」という気持ちが芽生えたんです。そこからしばらくは、4人の子育てをしながら練習を続けました。走れないときでも、乳母車を押しながら1時間くらい散歩したり(笑)。体を動かすのはやめませんでした。

子どもが小さいうちは、一緒に少し遠出して関東近郊のマラソン大会に行ったのも、思い出に残っています。今は全国各地のマラソン大会に出場していますが、参加賞として地域の名産品がもらえたり、その地ならではの景色を楽しんだり、そういう魅力もありますね。各地の仲間との交流も、走り続けるモチベーションになっています。

専門医が語る、年を重ねてもランニングを続けるメリット

諏訪先生 ランニングの効果は、大きく「身体」と「心」に分けられます。身体の面では、内臓脂肪を減らして体重を落とすことで膝への負担が軽くなり、変形性関節症などの予防につながります。また、少し息が上がる強度でランニングを継続すれば心肺機能が高まり、全身に酸素を効率よく運ぶことができるようになります。これらのことは糖尿病や高血圧といった生活習慣病の予防・改善にも大いに役立つでしょう。

心の面でもメリットは大きく、ランニングをすると「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンやエンドルフィンの分泌が促されることで気持ちが整い、睡眠の質の向上にもつながります。また、弓削田さんのお話にあるように、ランニングを続けていくうちに自然と仲間ができ、それぞれ目標を共有することで前向きな気持ちで続けやすくなるのも、ランニングならではの魅力です。

走る・休む・整えるを大切に。変化する体と向き合うトレーニング

弓削田さん 初マラソン後は3時間9〜10分台を行ったり来たりで、思うように壁を越えられませんでしたが、転機となったのは54歳のとき。末っ子が高校生になり、時間の余裕ができたタイミングで、東京の陸上競技クラブに入ったんです。練習方法を見直し、仲間と走る環境を得たことで、記録は一気に伸びました。一人では出せない粘りを、仲間が引き出してくれたのだと思います。

ストレッチをする弓削田さん

ストレッチをする弓削田さん

トレーニングは基本的に毎日行っています。月の走行距離は600〜800kmほどで、仲間や医師から「走り過ぎ」と言われることも多いです。ただ、レースがある月はピークを合わせることを意識して、400km程度に抑えます。フルマラソンの翌日など疲れが強いときは、ウォーキングに切り替えることも。5〜10kmほど歩く、いわゆる「積極的休養」です。個人的には、家でじっと休むより、少し動いたほうが回復が早い感覚があります。

練習日誌もずっとつけています。天気や練習内容、走行距離に加え、「足が痛かった」「気持ちよく走れた」など、その日の感覚も手書きで書き留めています。心拍数やピッチ、ストライド(1歩の長さ)まで細かく記録する人もいますが、私はそこまでしません。その代わり、足の絵を描いて痛む場所を印で示すなど、体の状態をビジュアルで把握するようにしています。

弓削田さんが30年近く書き続けている練習日誌

弓削田さんが30年近く書き続けている練習日誌

走り続けるために特に意識しているのは、体のケアと規則正しい生活習慣です。週に一度は鍼(はり)の治療に通ったり、毎朝歯を磨くときは、ストレッチボードに乗ってふくらはぎを伸ばしたりしています。ふくらはぎは第二の心臓とも言われますし、血流を整えることはコンディションにも直結すると思っています。食事はタンパク質、ミネラル、ビタミンをバランスよく摂り、睡眠はなるべく8時間確保することを心がけています。

年齢を重ねて変化したこともあります。更年期で体が痩せ、50代半ば頃から寒さがこたえるようになりました。マラソン大会は冬場が多いので、朝起きた時点で3〜4℃と寒い日は、ウォームアップから慎重になります。体を冷やさないように、お風呂で疲れを取ることも欠かせません。温活のために、近所のスーパー銭湯に行くことも多いですね。

ストイックに走り込む弓削田さん

ストイックに走り込む弓削田さん

頑張り過ぎて失敗した経験もありますよ。62歳で2時間52分を出したときは、インターバル走など負荷の高い練習を重ねていました。その結果、右足を疲労骨折してしまったんです。この経験をきっかけに、最近はオリンピック選手や大学の先生などにお会いする機会に恵まれているので、積極的に質問してお話を聞き、練習方法を見直すようにしました。また、最近の若いランナーさんは科学的な知見が豊富で、乳酸が溜まりにくく、効果的に走る練習のペースなどをよく知っているので、彼らにも質問をして具体的なアドバイスをもらっています。そうした情報を取り入れながら、無理をせず、長く走り続けられる方法を探っています。年齢は関係なく、人に教わることはとても大事です。

専門医から見た、中高年が長く走り続けるために気を付けたいこと

諏訪先生 中高年の方が長く走り続けるには、「強度の上げ方」を間違えないことが大前提です。目安としてよく使われる最大心拍数は「220−年齢」。その6〜7割程度の心拍で「会話できるくらい」の強度を保つのが安全ラインになります。走行距離は一気に増やさず、身体の調子に合わせて少しずつ増やしましょう。そして、痛みなどの違和感が出たら、無理をせずに休養を取り、症状が軽いうちに対処するのが良いでしょう。走るフォームも最初から完璧にはならないので、長く続ける中で自然と整えていくことが大切です。筋力面では、重い負荷をかけるよりも、手軽かつ安全に行える、自重トレーニングがおすすめ。スクワットやプランクなどで体幹や股関節周りを支える筋肉を鍛えるだけでも十分な効果が期待できます。

リカバリーも欠かせません。年齢とともに筋肉や腱の柔軟性が落ちるため、走る前後に各10分程度、ウォーミングアップとクールダウンの時間を確保したいですね。走る前は動的ストレッチで血流を上げ、走り終わったら張りの強い部位をすぐアイシングすると、炎症を抑えて回復を早められます。また、空腹で走ると筋肉を破壊してエネルギーを生み出すことになるので、水分に加え、バナナなど軽い補給をしてから走るのがおすすめです。疲労をためないためにも睡眠時間はしっかり確保し、入浴はぬるめのお湯に20〜30分、肩まで浸かります。温かいシャワー(入浴)と冷たいシャワーを交互に繰り返す交代浴を取り入れるのも回復に役立ちます。

人生100年時代。“ちょうどいい”走り方を見つけて楽しく、健康的な毎日を

弓削田さん 私自身が今目標にしているのは、100kmを10時間未満、富士登山競走を4時間30分未満、フルマラソンを3時間未満で完走する「年間グランドスラム」です。昨年67歳で前人未到の年間グランドスラムを達成しましたが、今年も達成を目指します。さらに、70歳になってもフルマラソンの世界記録を更新し続けることが次の目標です。そのためには故障をしないことが何より大切なので、今の自分に合った練習量と強度を探り続けています。心技体と言いますが、私は「技」には「頭」も入っていると考えています。つまり「気持ち・技と考える力・体」。この三つがそろっていれば、年齢に関係なく伸びしろはあるのです。

弓削田さん直筆のメッセージが書かれたランニングチームのユニフォーム

弓削田さん直筆のメッセージが書かれたランニングチームのユニフォーム

同世代の方や少し下の40代〜50代の方に伝えたいのは、「動き続けること」の大切さです。年を重ねると足が上がりにくくなるし、転びやすくもなる。人生100年時代、60代後半や70代からの残り3分の1くらいをいかに生きるかを考えたときに、少しずつでも早いうちから体を動かした方がいいと思います。そして目標を持ってみてください。それには大会に出るのがおすすめです。3kmくらいのファンラン大会(楽しみながら走ること)でも十分ですし、家族や仲間と「一緒に出よう」と約束するだけで続けやすくなります。まずは近所のコンビニまで1km走ってみる。そんな小さな一歩でも、続ければ体はきっと応えてくれますよ。

年齢を重ねるほど、ランニングは「自分の体と向き合う時間」になっていくのかもしれません。長く走り続けるために大切なのは、頑張り続けることではなく、整えながら続けること。速さや距離だけを追いかけるのではなく、休むこともケアをすることも、すべてがトレーニングの一部です。今の体に合った距離で、今の体に合った走り方を選びながら、自分のペースで心地よく続けていきましょう。

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