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試合でベストパフォーマンスを引き出すためには。アスレティックトレーナーが語るコンディショニングの重要性

試合でベストパフォーマンスを引き出すためには。アスレティックトレーナーが語るコンディショニングの重要性

「ベストタイムを更新したい」「プレーの精度を上げてチームに貢献したい」など、スポーツでベストパフォーマンスを発揮するためには、どんな行動が必要なのでしょうか? アスレティックトレーナーの一原克裕さんいわく、パフォーマンスを高めるためには、日頃から自身のコンディションを把握することが大切だそうです。最大限の力を発揮するために必要な考え方やアクションについて、一原さんに教えていただきました。

株式会社ALIGNE 代表・ウェルネスデザイナー 一原 克裕さん

株式会社ALIGNE 代表・ウェルネスデザイナー
一原 克裕さん

株式会社ALIGNE 代表・ウェルネスデザイナー
一原 克裕さん

早稲田大学卒業後、ブリッジウォーター州立大学大学院へ進学。2011年に米国アスレティックトレーナー資格認定委員会公認アスレティックトレーナー (BOC-ATC)を取得。その後、MLBシアトルマリナーズのマイナーリーグ球団で3シーズン従事。WBC中国代表にも2013、2017大会で帯同。2022年株式会社ALIGNEを設立し、法人向け健康経営コンサルティング及びウェルネスプログラムの提供、スポーツ関連事業を開始。トップアスリートから一般のスポーツ愛好家、子ども達までさまざまな対象へ怪我の予防、コンディショニング、トレーニングなどを講習会やパーソナルトレーニングで提供している。

コンディションを把握することが、パフォーマンス向上の第一歩

スポーツにおいて望む結果を出すには、日常生活からさまざまな取り組みを行うことが重要になります。この記事では、ベストパフォーマンスを発揮するための行動について、お話します。

皆さんの中には、アスリートがインタビューなどで「勝つためにパフォーマンスを最大限発揮する上で、まずはコンディションを整えることが大事」などと話すのを聞いたことがある方も多いでしょう。スポーツにおけるコンディションとは、簡単に言えば“その日の心身の調子”のことです。私自身もアスレティックトレーナーとして、アスリートのコンディションレベルを把握するために「今日のコンディションは10段階でどのくらい?」と尋ねることがあります。あくまで本人の主観的な感覚ですが、自分自身の心身の調子の良し悪しを自覚していることが、コンディションを整えていくための前提となります。

一般の方でも、日頃からコンディションレベルを見える化する習慣がつけば、自分の身体の調子に対する解像度が上がり、パフォーマンスを高めるためのアクションを取りやすくなります。このコンディションを上げていくプロセスのことを、コンディショニングと呼びます。パフォーマンスを高める上でコンディショニングの重要性をお伝えするために、私がよく用いるのがパフォーマンスピラミッドです。コンディショニングは主にこのピラミッドの下の3段にアプローチしていくものになります。

パフォーマンスピラミッド

パフォーマンスピラミッド

スポーツで結果を出そうとした場合、多くの方が注力しがちなのはピラミッドの上の2段。つまり、競技スキルや筋力・スピードといった要素です。ところが、上の図を見てもわかる通り、土台になるのは「ベストパフォーマンスを発揮した先に何があるのか?」などのマインドセットであり、次に必要なのは休養や栄養といった要素。いくらトレーニングを頑張っても、なかなかパフォーマンスが向上しない……という方は、この土台部分に課題があることが多く、練習やトレーニングの効果を上手く生かし切れていないことがあります。まずはこの部分を見直すことから始めてみましょう。

ウォーミングアップとクールダウン。適切なタイミングで、適切なアクションを

パフォーマンスを高めるためには、どんな行動を、どのタイミングで取るかが重要です。例えば、眠る直前に熱いお風呂に入ると睡眠の質が下がってしまうとか、寝る3時間前には夕飯を食べ終えていた方がいいとか、“原理原則”を知ることが、コンディションを良い状態に保つためのカギになるのです。そうした押さえておきたいポイントの一つに、運動前後の行動があります。スポーツをする時は、10〜15分程度でいいので、必ずウォーミングアップとクールダウンをセットで行いましょう。

ウォーミングアップに関しては、「ダイナミックストレッチ(動的ストレッチ)」といって、身体を大きく動かしながら筋肉を刺激し、関節の可動域を広げるような運動が推奨されています。これを行うことで筋肉の温度が上がったり、神経の伝達スピードが上がったりして、パフォーマンスを発揮しやすくなるからです。また、心拍数も徐々に上がり、試合・大会に臨むためのフィジカルとメンタル両方の準備が整います。運動前は、気持ちも身体も“上げていく”フェーズです。

運動前と運動後にそれぞれ必要な行動

運動前と運動後にそれぞれ必要な行動

運動後は、反対に“落ち着かせていく”フェーズ。身体をリラックスさせるために、「スタティックストレッチ(静的ストレッチ)」をしたり、指やマッサージガンで筋肉をゆっくりほぐしたりするとよいでしょう。深く呼吸をしたり、ヨガをしたりするのもおすすめです。また、温かいお湯と冷たいお湯に交互に入る交代浴を行うと、循環が良くなり疲労回復も早まります。家で交代浴を行うことは難しいですが、「温かいお風呂に浸かる→冷水のシャワーを浴びる」といった動作を2分ずつ4セット繰り返すだけでも、翌日の疲労度が変わってきますよ。クールダウンは、ケガの予防や疲労の回復につながります。しっかり行うことで、日々のコンディションの波が小さくなり、「大事な試合の日にコンディションが悪い」といった状態も防げるでしょう。

ルーティン化によって最適なコンディショニングが見えてくる

ルーティン化によって最適なコンディショニングが見えてくる

皆さんの中には「大事な試合だから」と張り切って、いつもと違う睡眠法や食事法、ウォーミングアップなどを取り入れて、「なんだかいつも通りのパフォーマンスが発揮できなかったな……」と感じたことがある方もいるかもしれません。

コンディショニングは、継続することが大切です。例えば、毎回同じウォーミングアップを行うことで「前回は関節が柔らかかったのに、今日は硬いな」など、微妙な変化に気づくことができます。トップアスリートがよく行っているルーティンがまさにそれ。競技レベルが上がるほど、自分自身のささいなコンディションの変化を感じ取れるようになるのです。

ちなみに私たちアスレティックトレーナーは、スポーツ現場で実際に何をしているのか、わかりづらいかも知れませんが、アスリートのコンディションのわずかな変化も見逃さないように、細心の注意を払っています。私はグラウンドに出たら、他愛のない話も含めてできるだけ多くの選手に声を掛け、コミュニケーションを取るようにしています。一見調子が良さそうなアスリートでも、声を掛けたら実は違和感を抱いていることがあるからです。

プロアスリートはトレーナーなど外部の力を借りることができますが、一般の方で専属トレーナーがいる人は少ないと思います。最近では、さまざまなウェアラブルデバイスを使用して、データを基にコンディショニングの設計ができるようになりました。そうしたデータも補助的に使いながら、自分なりのルーティンでコンディションを把握し、ベストパフォーマンスを追い求めてみてください!

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